カナダ サウスハウザー遠征 ベッキーシュイナードルート
- 1 日前
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更新日:4 時間前
期間 R8(26).7/12~7/22
山域 カナダ バガブー州立公園 サウスハウザータワー
「ベッキー&シュイナード」ルート 5.10 15P
参加者 Kinoshita、シロクマ氏、TAさん、AKさん(山岳同人Flambe)

○ 7/12 離福→羽田→成田→カルガリー国際空港、同市内ホテル泊
連日の雨と猛暑でろくにトレーニングができていない上、出発6日前に人生初のぎっくり腰をやってしまう。鎮痛剤注射に針、整体とあらゆる治療を施し、どうにか歩ける程度に回復するが、我が腰も少しは空気を読んでほしいものである。今回は2年前にバガブースパイア北東稜を共に登ったシロクマ氏に加え、AK氏・TA氏という“ガチ勢”が参戦。成田で集合し一路カルガリーへ。入国までは問題なかったが、レンタカーの受け取りで3時間もかかってしまう。「スペアタイアは積んでいるのか?」と尋ねると、受付の係員は自信たっぷりに「積んでいないがロードサービスがあるから大丈夫だ」と胸を張る。この日は空港近くのホテルに投宿。駐車場では野ウサギが呑気に草を食んでいる。
○ 7/13 カルガリー→トレイルヘッド駐車場→アップルビーキャンプサイト
真っ赤なシボレーに全装備を詰め込んで一路西へ。道路は基本片側4車線で、車窓から見える景色も実に広々としている。ハイウェイを300kmほど進み、いよいよ約50kmのダート道に入る。砂利道の林道とはいえトラックが離合できるほどの立派なものだ。しかし約36km地点でガツンと衝撃を受け、モニターに警告が表示される。やってしまった。慌てて確認すると右前輪がバーストしている。ロードサービスを呼ぼうにも当然圏外である。どうしたものかと思案中、通りかかかった母娘が声を掛けてくれる。スペアを持っていないと言うと「そんなはずは無いわよ」と有無を言わさず、満載の荷物を下ろし、車の底からスペアを見つけ出してくれる。そして「Good Luc」と言い残して走り去ってしまった。チャチなスペアで恐る恐る残りのダート道を走破し、ようやく登山口の駐車場に到着する。これまた運が良いことに、ハリネズミ除けのチキンワイヤーが放置されており、有り難く使わせてもらう。蚊にたかられながらもパッキングを済ませ行動開始。ザックの重さは30kg前後か。2年前と比べて若干涼しいのは有り難い。樹林帯を抜けると視界が開ける。高山植物が咲き乱れる先にそびえる岩峰群、そしてその間を流れ下るアイスフォールが見えてくる。次第に急登となり、カインハット小屋を過ぎ1時間強の急登をこなしてアップルビーTS着。


○ 7/14 晴 アップルビーTS→イーストクリークBC
荷揚げ2日目。アップルビーからクレセント氷河を登り、バガブースパイアとスノーパッチ間のコル(BSコル)の雪壁をあえぎながら登る。BSのコルを越え、ヴォーエル氷河に入るとようやく目指すハウザー山群が見えてくる。並んだ3つの岩峰の左端が目指すサウスハウザーである。快晴無風の最高のコンディションのもと、今度はハウザー=ピジョンスパイア間のコル(PHコル)を目指して氷河を登ってゆく。青空に蒼い氷河そして雄々しくそびえる岩峰群。日常に疲れ、錆び付いた心がきしみながらも震え出す。PHコルからイーストクリークを目指して急な斜面を下ってゆく。途中落石も多く嫌な感じで神経を使う。下りきると広くひらけた雪原の所々に岩盤が露出しており、点々とテントが見える。イーストクリーク到着である。ここはサウスハウザーの直下であり、その偉容に「これは来るところを間違ったかもしれぬ」と絶句する。テント設営後、取り付きの尾根末端へのアプローチを確認に行く。


○ 7/15(アタック初日)イーストクリークBC→サンディリッジVP
駆けつけた現場で死んでいたのは、なんと自分自身だった。しかもかなり腐乱が進んでいる。不吉な夢に思わず身震いするが、それでも少しは眠れたことを知り安堵する。時計を見ると起床時間が近い。二日間の荷揚げで腰の状態は悪化しており、このまま突っ込んで大丈夫かと不安になる。あっという間に起床時間となり、あれこれ考えることを止めて目の前の作業に集中する。先行する4人パーティーに追従し尾根末端から残雪を繋いで登る。さらにガレ場を登ると特徴的なボルダーに行く手を遮られ、ロープアップポイントに付いたことを知る。ここからはAKさんとTAさんの兎チームと自分とシロクマ氏の亀チームに分かれて登る。トポによれば難しくなるのは4ピッチ目の「モーニングコーヒーピッチ」からとあるが、1ピッチ目出だしから中々に立っており、早速濃いコーヒーを流し込まれた気分である。3ピッチを登りいよいよ下部の核心であるモーニングコーヒー(4P目)に取り付く。右上する4番サイズのクラックをたどり、少し迷ったが壁の左端のフィンガーを登る。快晴、無風、フリクションも申し分ない。少し悪いギャップをレイバックで越える。まだまだ先は長く、片手をジャミングしたまま腰にぶら下げたペットボトルの水を飲んで一息つく。続いて現れたバルジは付け根にトーテムの紫が効いたので、思いっきり右手を伸ばすと上のクラックに届く。スカスカだが強引に身体を上げ、飛ばしで少し上のガバを掴む。60mギリギリまで登り、残置スリングでピッチを切る。続いて300foot cornerと呼ばれる100m近い巨大なコーナークラックに入る。ワイド~ハンドのコーナーでひたすら同じ動作が続く。そう難しくは感じなかったが、ロープがスタックしてしまい、どうにも回収できず2本のうち1本を途中で切断する事になる。兎チームの予備ロープを受け取り、10ピッチ目を登り広々としたサンディリッジにたどり着く。兎チームは11台のバリエーションを攻めている。ここからはとにかくトラブル続きで、遅々として進まず、これじゃサンディリッジでビバークした方が良かろうと言うことになり、ロープを固定して下降する。あちこちにビバークの跡があり整地は不要で、素早くツェルトを張り、雨具その他ありったけの衣類を着込んでビバーク体制に入る。寒くて殆ど眠れないが、風も無く、下は砂地なので快適なビバークである。


7/15 少し眠ると寒さで震えて目が覚める。このサイクルを繰り返すこと8時間くらいで夜明けを迎える。有り難いことに今日も晴れている。11P(5.10-)を登り返し、問題の12P目は右のワイドを避けて正面のハンド~フィンガークラックを登る。トップはAK氏で4人1チームで後に続く。パワーが要るうえ、とにかく長い。どれだけ登ってもビレイ点は遙か頭上のままである。3回ほど休憩を入れながらようやくビレイ点へ。ちょっと自分の手に余るピッチだった。またもやロキソニンのお世話になる。シロクマ氏も体調が良くないらしく解熱剤を飲んでいる。続くピッチはビレイ点から右手に伸びる所々氷の残ったガリーを詰め、ガリーを塞いでいる岩壁を左上するクラックを登る。ガリーを抜けると一気に直射日光に晒され猛烈に喉が渇く。昨晩から殆ど食べていないせいで、身体が重い。しばらく休憩していると、下から凄い早さで追いついてきたカップルから声を掛けられる。ニュージーランドから来たという二人は「水あるか?食料あるか?」と気前よく分けてくれ、さらに「お前らヴィーガンじゃ無いよな」と笑いながらお手製のトルティーヤまで分けてくれる。今回は本当にトラブル続きだが、毎回奇跡のように誰かが助けてくれる。そしてそのカップルは疾風のごとく登って行ってしまった。言うことを聞いてくれない身体を引きずりながら14P目を終り、有名な残置スリングによるテンショントラバースを越える。いよいよ最終15P目。ガリーをそれこそ亀が這うように登る。ロープいっぱい登り切ったところがルート終点である。只々しんどいだけで達成感もへったくれも無い。シロクマ氏が上がってきた。ロープを解き短い懸垂下降を終えると、山頂までの長いガレ場登りである。ルートは判然とせず、所々水が流れたりしてそれなりに悪い。結局全てスタカットで5Pくらいのクライミングだった。最後の立ったハンドクラックを登り、少し歩くとサウスハウザー山頂着。標高3364m。色々とあったがなんだかんだ言ってたどり着いてしまった。快晴、無風。経験したことが無いような透明な空間の向こう側は、氷河と急峻な岩峰群が広がっている。どうやら自分の世界の最果てまで来てしまったようだが、今ひとつ現実味が無い。しばし余韻に浸ると日没と長い下降という現実が迫ってくる。せき立てられるように下降点を探し、リッジに沿って忠実に降りるが、3回目で次のラッペルアンカーが見つけられず、シロクマ氏が登り返してくる。日没も迫ってきた。天候も安定しているし、危険を冒して下降することは無いだろうと、2回目のビバークに入る。昨日よりも狭く、傾いているが有り難いことに1㎡ほどの残雪があり、2時間おきくらいに湯を沸かして身体を温める。もらった例の食料が身体に沁みる。 ここまで来ると完全に開き直り、「この山とじっくり付き合うもの悪くない。」と思い始める。


7/17 長い夜を堪能していると次第に地平線がオレンジ色に輝き出す。身体は未だ興奮状態にあるのか空腹は全く感じない。装備をまとめ、慎重に下降を開始する。30mを少し過ぎたところで次のアンカーを発見し、正しい下降路にいることが分かり安堵する。その後もロープが回収できず登り返したり、みぞれ交じりの雨が降ってきたりと、毎度のごとくトラブルに見舞われながらも少しずつ降りてゆく。隣のセントラルタワーではセラックが崩壊し派手な雪崩が起きている。遂に氷河に降り立つ。普通に両足で立てるこのありがたさよ。ロープを畳んでPHのコルを目指して歩き出した途端、片足が雪の下のクレバスに落ち込み冷や汗をかく。PHのコルを慎重に下降し、懐かしのイーストクリーク到着。装備を放り投げて仰向けになる。この世界から隔絶された感じ、乾燥した空気、高所特有の蒼い空。降りてきて見上げるハウザーは少し穏やかに見えた。


7/18 イーストクリーク→アップルビー
撤収。全装備を担いで氷河を登り、PHのコルを目指す。大きな落石があり巨大な落石群が雪煙を上げながら落ちてゆく。もう10分通過が遅かったら危なかった。PHのコルを越え、ヴォーエル氷河のなだらかな斜面をBSのコルへ向けて下ってゆく。本格的にシーズン入りしたらしく、続々とクライマーが上がってくる。すれ違う人から口々に「ベッキーに登ったのか?おめでとう!」と言われるが、なにせこちらは3日もかかっており、いささか恥ずかしい。天候は穏やかで絶好のクライミング日和である。ピジョン、スノーパッチには多くのクライマーが取り付いており「ヒャッホー、イェ~!」と歓喜の声が上がっている。BSのコルを2回の懸垂で下降し、クレセント氷河をくだってアップルビー着。気が緩んだのか、動けなくなるほどの疲労感を覚える。そんな自分を余所に、AK氏は早速付近のボルダーを手当たり次第に登っている。


7/19 アップルビー→トレイルヘッド下山→カルガリー
最終日。テントを撤収し下山開始。3時間ほどで駐車場着。さてチャチなスペアで50kmのダート道を脱出せねば。ダート道を抜け、ようやく繋がったロードサービスの回答は「80km先のタイヤショップでタイヤを買え。」だった。

7/20~21 カルガリー→成田
TA氏はしばらくカナダに滞在するとのことで、現地にて解散。ウエストジェットの機内はガンガンに冷房が効いており、パーカーを着込み毛布を頭からかぶって寒さに耐える。2日目のビバーク並みに寒かった。
7/22 羽田→福岡
降り立つと陽炎がのぼる酷暑で息が詰まる。何かを達成した感は全くないがとにかく終わった。

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