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残雪期八ツ峰縦走

  • 2022年6月13日
  • 読了時間: 8分

更新日:2022年9月22日

【山域】 剱岳周辺

【参加メンバー】 L シロクマ改 M T.I M 梅本

【期間】 2022/4/29ー2022/5/4


4/29 曇→雨

8:05立山駅8:50-10:25室堂11:00-12:00雷鳥平TS


 初日から沈殿を決め込む。

 昼頃、雷鳥沢キャンプ場にてテントを張ると予報通りの雨が降り始めた。不貞腐れて売店でビールを買い込み、悲しみの宴会となった。


4/30 晴

4:10 起床-5:50 TS発-7:40 剱沢小屋-9:25 真砂沢小屋-10:10 四ノ沢出合-12:15 P1取付TS


 前日の雨は夢の狭間へと消え去り、澄み渡る晴天だけが残された。まだ狭間を彷徨っていたい気分であるが、放射冷却によって現実に呼び戻される。冷え込んだ心を慰めながら別山乗越へと旅立った。5:50。

 苦しみの急登を登りきり乗越を過ぎるといよいよ恋焦がれた剱岳がその姿を現す。それと同時に猛烈な冷気が何処からともなく吹き付けて、折角慰めた心を容赦なく打ち付ける。雄大な“ゆとり”の温帯気候で育った脆弱な肉体と精神は風雪に晒されるとたちまち崩れ落ち、精神の子供部屋へと逃げ込んでしまう。一通り現状を嘆き終わったところで、目前に現れた剱岳の雄姿を堪能することにした。だだの岩と雪の塊なのだが人々を惹きつける魅力を放つ不思議で怪しい山だ。

 5月の強烈な日差しに細胞の隅々まで焼かれながら、剱沢を永遠と下るとⅢ稜の基部へとたどり着く。うだるような暑さ、シュルンドだらけの雪渓、溶けて水分を含んだ雪。すべてが我々の生存を良しとしないように感じる。

 10:10。アックスを取り出し、ハーネスをはくとⅢ稜の登りに取り掛かる。傾斜が徐々に強くなるにつれ足の乳酸も蓄積されていく。せめて雪がずっと繋がっていれば歩くだけで済んだが、あいにく強烈な太陽光によって雪面は所々切れ落ちており必要以上に労力を要した。

 Ⅲ稜を1/3ほど登り、最初の岩峰手前の開けた場所をTSとし設営作業を行う。若きフレッシュパワーを見せつけるはずだったが、熱中症により作業のすべてを50代2人に押し付け20代は涅槃像と化して入滅するのだった。


5/1 雨

沈殿日。


5/2 晴→雪

2:00 起床-4:10 TS発-6:30 P3取付-9:15 P4取付-9:50 P5取付-12:25 P6取付-14:10 P6手前(少し引き返す)-TS15:10


 4:00。もそもそとテントを這い出ると冷たい空気で満ちた空に星が光っている。本日の晴天を期待させる空気に心を躍らせながら早速ロープを伸ばす。

 P1基部へ一先ず1ピッチ伸ばして取り付いた。基部から岩峰を巻くように左側へトラバース。ロープを2ピッチほど伸ばして滑り台のルンゼへと回り込んだ。

 次第に日が登りはじめ、モルゲンロートのオレンジが雪面を染め上げていく。雪が締まっている内にルンゼを抜けてしまおうとロープを伸ばしたまま3人同時に雪面を這い上がる。誰の手垢もついていない雪を無粋に歩き散らす背徳感はとても心地よい。

 長いルンゼを抜けるとすでに夜は明け、ぎらついた太陽がにらみを利かせる。刺激された毛穴からジワリと汗がにじむのが分かった。挑発的な日差しに照らされたP2、P3のコルは白銀の雪景色と灼熱地獄が見事に調和している。そこからブッシュに突っ込む様にP3へと取り付いた。うねうねと纏わりつくブッシュはまるでこの世のしがらみを具現化したようである。ピッチを2、3回切ったが2ピッチ目から出てくる岩稜の登りは見た目より悪い。行く手を阻む這松も相まって、苦戦を強いられた。

 P4への登りも岩と雪が入り混じるセクション。まずは基部までロープを伸ばし、岩肌が剥き出たナイフリッジを渡る。雪が申し訳ない程度にかかり、先端部はベルグラが張っている。拙いアイゼンワークでは心もとないが足場はしっかりしていたので無心で渡った。そこから雪面を60mほど登り頭頂部まであがりこむ。雪面にはアイゼン・アックスはしっかりとキまるため難しくはない。

 P5へ雪稜を詰めると、ラスボス感のある岩峰が出現する。遠目にはその圧力によって戦意をおおいに削がれるが、近づくと出だしと中間に残置のハーケンが見えた。右側から中間にある立木まで登ると中心部で左側へトラバース。トラバースは見た目ほど悪くないが非常に怖い。自身はフォローであるにも関わらず手袋を脱ぐ体たらく。そのまま左のブッシュ帯を抜ける。

 P6の登りから雪主体になった印象を受けた。ラスボスを抜けた安堵から先輩2名を待機させての盛大なトイレ休憩を挟むがその間に雲行きが怪しくなり、視界が雪でさえぎられる。世間に先駆けてトリガーを発動し身軽になるも、もはや稜線の広さも斜面の傾斜もわからない程の降雪になったため敢え無く適地にテントを張る。高級チャーハンの様なパラパラの雪と打ちつける暴風の責め苦を受けながら無事設営。終日トップを張ったシロクマ改氏がぐったりと横たわり、ビタミンと称してウィスキーを補給する姿を眺めながら一日の終わりを実感した。


5/3 晴

2:00 起床(4:00迄待機)-6:40 発-8:40Ⅰ峰-11:10Ⅱ峰-12:40Ⅲ峰-13:55Ⅳ峰-15:30Ⅴ峰-16:10ⅤⅥのコル TS


 暗闇に包まれたテントの中は時間の感覚を忘れさせる。天井をたたく雨音に意識を呼び戻されたが、その絶望を理解する間もなく再び就寝。2:00。

 4:00。再度目を覚ますとテントをたたく雨音はなくなっていた。相変わらずの暗闇の中、支度にとりかかる。テントのフライはバリバリに凍り付いており、収納する手間を一段と億劫なものへ昇華させた。

 昨日、激闘の末にたどり着けなかったP6の後始末をしなくてはならない。一先ずTSからP6基部まで雪面を這い上がった。すでに息も絶え絶え。Ⅲ稜の頭へは直登はせず右へ右へとトラバースし、雪がたまったルンゼを詰める。昨晩降ったであろう雪に蹴り込んだ足が潜るが、大した深さではない。下地はそれなりの硬さのため、とりあえず大げさに息を切らしながら稜線へと復帰した。

 Ⅰ峰から見る世界は抱いていた春山のイメージとは裏腹にたっぷりと雪におおわれていた。しかし目を凝らして見ると雪の下には這松や岩が身を潜め、融解した雪がおぼつかない足元を絡め取ろうと待ち構えている。下界で構ってくれるのはSiriだけだが、ここでは大自然の包容力を感じざる負えない。

 Ⅰ峰から最初の懸垂下降。意気揚々と先駆けとなったものの支点を見つける自信は全く持ち合わせていなかった。しかし人気ルートなだけあり大量に残された捨て縄が自らの存在を主張していた。脆弱な支点での下降は久しぶりのため妙な高揚感を覚える。

 天候は終始快晴で、風はほぼ無風だったため学生時代はlost boyの異名で恐れられた私もルートを迷う心配はなかった。しいて言えば明後日の方向に懸垂下降しないように注意する程度である。

 Ⅰ峰、Ⅱ峰と峰を超えるごとに足元はより雪主体へと変わっていく。天高くから降り注ぐ恵みの太陽が肌を焼き、刻一刻と雪を腐らせているのが分かった。水気を含んだ雪は重くまとわりつき歩きづらい。そのおかげで乾ききった筋繊維は活動限界を告げていた。入山初日は愛おしさに身を振るわせるほどだった雪稜も、いつしか軽蔑のまなざしを向け、踏み込む脚には憎しみさえもこもっている様だった。

 ふと振り返るとI氏の足は大きな雪団子となっており、アイゼンの優美な機能性は失われていた。苦悶の表情で雪団子と格闘するI氏を横目に自身の足元でギラギラと爪を立てるグリベルに称賛を送る。

 15:30、Ⅴ峰に到着。懸垂下降を2回つないでコルまで降りる。右側へ降りたくなる支点の向きだが、情報通りに左側へと降りた。

 着地点からすぐのえぐれたⅤ峰側の基部にTS設営を試みるも、下地が硬すぎて断念。少し上がり込んだ鞍部にテントを設営した。八つ峰の頭に向かって左手には剱本峰、右手には後立のパノラマが拝める一等地である。しかし、夜には吹き荒れる神風の洗礼を浴びる事となった。


5/4 晴

3:00起床-4:40発-5:40長次郎谷出合-9:30三田平-10:30剱御前小屋-11:30雷鳥平-12:50室堂-15:30立山駅


 敗退の朝。世界はしんと静まり返り、この空間が果てしなく続いていると錯覚してしまいそうだ。東の空から朝日がじわりじわりと世界を支配しようとしているのが見えた。

 テントをたたみ、長次郎谷へと降りていく。ここまでやってくるのに大いに身を削ってきたが、下りは何ともあっけない。まるでビデオの巻戻しの様に苦戦を強いられた峰々を横目に淡々と出会いまで下っていく。ここから始まる長い長い剱沢を登り返す事はなるべく考えない様にしながら。



4/30

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雷鳥沢のテン場


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別山の急登


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愛しの剱岳


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Ⅲ稜基部 灼熱の剱沢により既に限界突破の一行


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Ⅲ稜登りの責め苦


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先輩方がこしらえたTS


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TSの成れの果て



5/2

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Ⅲ稜P1取付からトラバース


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Ⅲ稜スベリ台のルンゼへのトラバース


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Ⅲ稜スベリ台のルンゼ 左側に迫るモルゲンロート


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Ⅲ稜P2P3のコルからP3取付へ 細胞が焼かれ水分が失われる


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Ⅲ稜P2、P1 


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Ⅲ稜P3 2ピッチ目 登りあがった奥のクラックが悪い


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Ⅲ稜P3 3ピッチ目 ブッシュが猛烈に邪悪


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Ⅲ稜P4取付へ バリバリに攻めるシロクマ改氏、ビレイするI氏


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Ⅲ稜P4のリッジ渡り バンドを足場に無心で渡るI氏


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Ⅲ稜P4登り 雪面を登る疲れ知らずのシロクマ改氏


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Ⅲ稜P5取付 予想外のⅢ稜の手強さに焦りを感じる一行


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Ⅲ稜P5 1ピッチ目 雪面の融解が進む


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Ⅲ稜P5 2ピッチ目 ラスボス感漂う岩峰。情熱で突破したシロクマ氏に続き果敢に攻めるI氏。


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Ⅲ稜P6登り ホワイトアウト手前



5/3

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Ⅲ稜P6 TS 寒さで笑顔が引きつる2人。夜中は雨。


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Ⅲ稜P6からⅠ峰へ 開始早々に息が上がる梅本


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Ⅳ稜合流ルンゼへのトラバース


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Ⅳ稜合流ルンゼ上部


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Ⅰ峰


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振り返ってのⅠ峰


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Ⅱ峰


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Ⅲ峰


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ⅢⅣのコル(バックは源次郎尾根) 雪団子生成器と化したI氏


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Ⅳ峰へ もはや体力が尽き果て歩く屍となった梅本(ビレイはI氏)


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Ⅳ峰から見たⅤ峰 


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ⅣⅤのコルへの懸垂下降


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Ⅴ峰への登り ウォーキングデッドとそれを使役するI氏


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Ⅴ峰


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ⅤⅥのコルへの1ピッチ目懸垂点


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ⅤⅥのコルへの2ピッチ目懸垂点


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2ピッチ目懸垂点からⅤⅥのコルへ


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ⅤⅥのコルTS 最高のロケーションだが夜は神風が吹き荒れる



5/4

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長次郎谷へ


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ⅤⅥのコルとⅥ峰フェース群


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長次郎谷 ”美しいー!”と叫ぶ幻聴が聞こえる症状に苛まれる


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地獄の剱沢登り返し すでに情熱を使い果たしたシロクマ改氏と未だに雪団子を生成し続けるI氏


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終わらない別山の下りから見える一向に近づかない雷鳥沢のテン場


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室堂



 



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